第2話 お金とかあちゃん
「とうちゃん、かあちゃんとお金と、どっちがいい」
「そりゃ、かあさんさ」
ととうちゃんがいった。
「一おく円でも」
「うん」
「百おく円でも」
「かあちゃんはお金にかえられない」
「ほんと」
かあちゃんとけんかして、おいだそうとしても、心ではそう思っているんだなあ。私は胸がいっぱいで、
「やっぱり」
といって、肩をたたいてやった。
(学級文集「なかま」)
一億円なら売ってもよい、などと、父親はついうっかりじょうだんのつもりで言ってしまいがちなのですが、この父親はそうではありません。
子供がまっすぐ直線的に質問をしてくるのに対して、このお父さんもまっすぐに答えています。
こういう父親の態度は実にりっぱですばらしいのです。
子供の質問を軽くあしらったり、肩すかしをくらわせたり、皮肉な言葉で答えたりするのは絶対禁物です。
この子はきっとふだんから母親のことを大事に思っているのに違いありません。
そんな大事なお母さんのことを、お父さんも大事に思っているかどうかを確かめたかったのでしょう。
お父さんのしっかりした返事を聞いて三年生のこの子はどんなに安心したことでしょう。
作品としても、一切衆生悉有仏性という人間の尊厳をうたったすばらしい高貴な精神のあふれたよい作品といえるでしょう。