第18話 やることやった

挿し絵 今回は、ちょっと身内の話を書きます。

 父は72歳で7年前に亡くなりました。肝臓ガンでした。亡くなる3年ほど前のこと、体調が良くなかった父がボソッと私に言いました。
「俺は、お前達(兄と私のこと)に認めてもらえないと、死ぬに死ねないんだよなあ」
「認める?そりゃ、認めてたって、そんなこと恥ずかしくて本人になんか言えないよ」
父は「そうかなあ」とみずからを納得させるようにつぶやきました。
 翌朝、体調不良のためベッドに横になって、新聞を読んでいる父に言いました。
「昨日言われたから言うわけじゃないけどね、お父さんは立派だと思うよ。住職としても、父としても、やることやってきたしさ」
私にすれば勇気のいる発言でした。
すると、バサリッと新聞を布団の上においた父は、なかばツッケンドンに言いました。
「お前ね、病人に向かってそういうことを言うもんじゃないよ。その言い方じゃ、まるであんたはやることやったから、もういつ死んでもいいよって聞こえるんだよ。嗚呼、がっかりした……」
病気になった人の心理の複雑さを痛感した時でした。父はただ、自分がやってきたことをほめてもらいたかったのです。それも一番身近な人に。周囲からは気さくな大僧正だと思われていた父の一面でした。

 次回はこの続きで「わたし、えらい?」でいきます。