第44話 駄目、駄目、レンズの目

挿し絵 この春、幼稚園をやっている先輩のお坊さんから、なるほどと唸る話を聞いた。

「運動会で、ビデオカメラでわが子を撮る親がいるけどね。」
「ええ、私も場所取りできないで、家内に怒られた……。」
「自分の子供が競争している時に、わが子のゴールの瞬間を必死に撮影してるんだよ。」
「そりゃそうですよ」
「でもね、思い出してごらんよ。自分がかけっこでゴールした時、まっ先に見るのは親の顔なんだ。」

 私は小学校の運動会の自分を思い出した。確かに「よくがんばったね」という親の顔が、そこにはあった。

「ところが今は、一生懸命走ってゴールした時に、親の顔を見ようとしたら、そこにあるのは無機質なレンズなんだ。子供の心が少しだけど、大きくなるのは、その時に親と目を合わせる、アイコンタクトができるからだと思うんだよ。」
 本当にそうだと思った。レンズに「よくがんばったね」という表情はない。

 自分の子供の時だけは他の人にカメラを頼めばいいんだよ、と先輩は加えた。

 この秋、一人でも多くの方が、モニターやレンズ越しでない、自分の目で子供達の精一杯を見てあげてくれればと思う。

 来週はreikoさんからいただいた『めぐり合い』でいきます。