第37話 水鏡の美人
インドの富豪の美しい嫁さんが姑とのトラブルに悲観し、自殺を決意して林の中に入ったが、いざという時に急にこわくなった。しかし家に戻るのも具合悪く、大樹に登った。
その樹の下に澄み切った美しい池があった。そこへ一人のお手伝いさんが水汲みに来て、池のほとりに立つと美しい顔が水面に映っている。
彼女はそれを自分の顔だと思い、「私はこんなに美しいのに・・・」と憤慨し、水ガメを地面にたたきつけ、意気揚々として戻り、主人に「旦那様、私はもう水汲みなどいたしません。ほら、私はこんなに美人なのですから」と。主人は吹き出しそうになったが「バカなこといわんで早く水を汲んでこい」と叱りつけた。
彼女はやむなくまた池に行った。前と同じように水鏡に映る顔は絶世の美人だった。そこで彼女はまたも水ガメを割ってしまった。
その様子を見ていた樹上の美人はつい吹き出してしまった。驚いたお手伝いさん、樹の上を見て、「あれっ、美人はあなたでしたか」と、やっと気がつき、がっかりしたという。
水面に映った美人の顔を自分の顔と錯覚して有頂天になり、美人は自分ではなかったと知ってがっかりする。これは顔だけのことではない。
私の知人の一人で、事業に成功したときの彼は威風堂々たるものだったが、数年して倒産した。そのときの彼はまさに別人のように小さくなっていた。
肩書や財力、権力は外からくっついたものでいつかは離れてしまう。自分の真の実力を見極めることが肝要である。