第39話 ケチは丸損
山寺にケチな和尚がおり、桶に飴を入れ大事にしまっていて、時折一人でこっそり舐めていた。
そして一人しかいない小僧には、「これを食えば死ぬぞ」と言っていた。しかし小僧はそのウソを見抜いていた。
ある日和尚が外出した。小僧は“時はいま!”と、高い棚の上にある飴の桶を取るべく踏み台に乗って手を差し伸べた。桶に手がかかったとき、踏み台がぐらついたため、手にした桶が傾き、流れ出た飴が頭や着物にかかってベトベトになった。
“万事休す”“どうせ怒られるんだから”と、小僧は腹を据えて心ゆくまで舐めた。そして一計を案じ、日頃和尚が愛用している茶碗を落として割った。
和尚が帰ってくると小僧はしくしく泣いている。
訳を訊ねても言わない。なだめすかして聞くと、「和尚様の大事にしている茶碗を割ってしまいました。どんなに叱られるだろうと思うと恐ろしくなって、いっそのこと死んでお詫びをしようと思いました。どうして死のうかと思い、いろいろ考えましたら、桶の中の物、食えば死ぬと聞いていましたので、“よしこれで死のう”と、少し舐めましたが死ねません。二口舐めても、三口舐めてもダメでした。頭にも着物にもつけてみましたが、まだ死ねません」といって泣きわめくのだった。
これには和尚、一言もなく黙り込んでしまったという話が、無住禅師の「沙石集」に出ている。
小僧にも時折与えておれば茶碗も割られずに済んだものを。ケチは丸損というべきか。