第42話 子供は鏡
ある実業家の家庭にあった実話だそうだが、両親と子供三人の5人家族。3人ともいい子だったが、長男が中学上級の頃からグレだした。
母親が何とか真人間に立ち直らせようと努力したが効果がなかった。
いよいよ手に負えなくなって主人に報告し、
「もう、女の私の手では何ともできませんから、お父さんから直接言い聞かせてください。」
と申し出た。
そこで、父親が3人を集め、
「お前たちは私たちのかわいいこども。なんとか立派な人になってもらいたいと思い、お前たちの要求はなんでも叶えるようにしてきたが、お兄ちゃんのこの頃の行動は何としても見過ごすわけにはいかぬ。もうすぐ高校生なんだから是非善悪の判断はつくはずだ。いま少し親心を察して親孝行な子供になって欲しい。」
というと、長男は、
「では、私も言わせてもらいますが、お父さんは子供に親孝行を要求する資格がありますか?まず自ら反省されたらどうですか。お父さんはこれまで私どもの前で親孝行してみせたこと一度でもありますか。お母さんは毎朝仏壇に向かって先祖を拝んでおりますが、お父さんは一度だって拝んでないでしょう。」
これには父親もすっかり参ってしまい、
「わかった。お前の言う通り私が悪かった。即刻改める。さぁ、これから5人揃ってお寺参りと墓参りをして先祖にお詫びをしてこよう。」
こうした一幕があっていらい、長男の非行は次第に影を潜めたという。