第43話 嫌いな相手に救われる
昔、西洋のある国の皇太子は、ハエとクモが大嫌いだった。
ある時、隣国との戦いに敗れて逃げ回っているうち、大樹の根元に腰を下ろした途端、どっと疲れが出て睡魔に襲われ、深い眠りに陥ってしまい、敵の近づいているのも知らなかった。
その時、一匹のハエが皇太子の顔の上を飛び回った。皇太子は無意識に手を払うのだがハエは逃げないどころか、皇太子の鼻の穴に入り込んだ。これでは眼を醒まさざるを得ず、ハッと気付くと敵の足音。
危機一髪のところで逃げのびることができた。
その後、またも戦いに負け、ただ一人になって生き延び、とある洞穴に入り、グッスリ眠ってしまった。
そこへ敵兵がやって来て、「この洞穴には皇太子がいるかもしれん。入ってみよう」と一人の兵士が言うと、その洞穴の入り口にクモが巣をかけているのを見て、他の兵士が、「クモの巣がかかっているからいないよ」といって敵兵は立ち去った。
そのため、皇太子は命拾いをした訳だが、皮肉にも日頃嫌がっていたハエとクモに助けられたわけである。
この世の中、人間万事塞翁が馬で、何が幸いするか分からない。これはお互い同士の付き合いも同じこと。「あんなやつ二度と顔を見るのも嫌だ」と嫌った相手に助けられることがないとは断言できない。
どんなに嫌いな人に対しても、いつか世話になるかも知れないであろうことを忘れず、おおらかに接することが肝要である。