第78話 ただで笠をやってどうするんですか
おとぎ話から演歌にいたるまで、出てくる仏といえば殆どがお地蔵さまで、お地蔵さまは直に庶民の仏である。
幸田文さんの話だが、母親代わりに孫の授業参観に行ったところ、国語の時間で「笠地蔵」の授業中だったそうだ。
貧しい老夫婦が笠を作って、お爺さんがそれを売りに出かけたがさっぱり売れないので帰宅の途につく。
そのうち雪が降って来て、とある村はずれまでくると、六体のお地蔵さまの頭の上に雪が積もっている。
お爺さんはその雪を払いのけ、笠をかぶせてやる。
家に帰って、その話をするとお婆さん、それはいいことをしてくれたと、たいへんよろこぶ。
金はなし、寒いから早く寝ようと蒲団に横になると、お地蔵さまが笠のお礼に宝物を持って来たという話だが、先生が、
「あなたがたがお婆さんだったら、どうしますか?」
と質問すると、一人の男の子が威勢よく手を挙げ、
「お爺ちゃん、ただで笠をやってどうするんですか。生活のことを考えてもらわなくては困ります」
と、母親が父親をやりこめる口調で答えたので、参観者一同大笑いをしたとのことだが、子は親の鏡で、この子は今日の家庭のふんいきを代弁してるようなもの。
このように乾いた心にやさしい思いやりの心を植えつけてくれるのがお地蔵さまである。