第27話 冥界の鏡
世の中、人知れず隠れて犯した罪や社会悪を、一体誰が明快に裁くのだろう。
例えば、戦後の幾つかの疑獄事件である。
完全に有罪でありながら、その金銭の受け渡しが、確かな犯罪としての証拠を提供できない場合は、彼らに有罪の判決は下されない。
また、現代社会の歪んだ構造や、教育の荒廃が生んだ、ひそかで陰湿に繰り返される情報機器の犯罪や、校内の暴力や蔑視である。
腹立たしい限るであるが、その露見はほんの一部で、結果が死を招く大罪なのである。
では、この彼らの厚顔さが、法の裏側でまかり通ったとき、いったい誰が悪を裁くのか。
「浄頗梨(じょうはり)の鏡」。
冥界で亡者の一々の罪業を映しだす鏡。
「お前の行き先は地獄!」。よく冗談で口にする言葉である。実は、この言葉の中に、千金に値する生活規範が隠れている。
曾て、人々は自分の生涯が「冥界の鏡」に、克明に映し出される事を信じ、恐れ、恥じ、懸命に忠実に生き、来世に苦しみ、科の無いことを祈りながら生活した。
「それは単なる迷信」と、嘲笑するもよく、信ずるもまた良である。
しかし、21世紀の現代こそ、本能に赴くまま振る舞うのではなく、これだけは守ろうという「冥界の鏡」を、一人一人が必ず持ちたいものである。